横歩取り4五角戦法の今年食らった手

筆者は居飛車党ながら、相掛かりが大の苦手なので、先手番で横歩取り模様になったら勉強不足なのに諦めて横歩を取るのだが、今年に入って、何故か4五角戦法をよく仕掛けられる。

これである。最近また流行ってるのだろうか?

実は筆者が定跡の勉強を始めた20年くらい前に最初に覚えた定跡が横歩取り4五角戦法で、結構馴染み深いのだが、指しこなせなかったのでやめ、相手から仕掛けられたことも観戦したことも少なかったので、うろ覚えになっていた。
そんな曖昧な記憶の中であるが、今年はこれまで見たことが無い手を色々食らった。
それらについて、少し調べたことと合わせてメモしておく。

1. ▲3六香△同角の後△5四香でなく△5五香
△4五角の後のオーソドックスな手順は、▲2四飛△2三歩▲7七角△8八飛成▲同角△2四歩▲1一角成△3三桂▲3六香

であり、ここで△同角▲同歩△5四香

という、角香交換の駒損をしながら攻める、筆者のような素人には理解不能だが有望とされる有名な手があるが、この前、△5四香でなく△5五香とされた。

△5四香には▲8五飛で先手優勢、が定跡の教える所であり、△5五香なら▲8五飛が香取りになりさらに条件が良さそうなので、迷わず▲8五飛と打ったら、△2五飛とされて罠に嵌ってしまった。

銀取りと△5七香不成からの飛車の素抜きを同時に受ける術が無い。

調べてみたら、これは昔から知られている手で、この△5四香には▲8五飛、という固定観念を持っている筆者のような人間をターゲットにしたハメ手らしい。
見事にはまってしまった。

△5五香に対する正解は▲4六角または▲6六角らしい。△5四香相手だと今1つとされる手だが、この場合は香当たりになるので良いとのこと。これに対し△8六飛〜△7六飛〜角取りが気になるが、△8六飛に▲7七桂で何とか凌げるということか。


2. ▲3六香△6六銀の後、△6九飛▲3九飛を入れずに△6七銀成
上記の▲3六香には△同角でなく△6六銀が最有力とされ、その後は▲5八金△3八飛▲4八飛△同飛成▲同玉

△6九飛▲3九飛△6七銀成▲6九飛△5八成銀▲同玉△7八角成▲6三飛成△6二銀▲6六竜△3八金▲3九銀打△6七歩▲3八銀△6八馬▲4八玉△5八金▲3九玉

で先手良しというのが昔からある、もし途中で▲6六竜を形良く▲6五竜としてるとここで△5七馬で詰んでしまうことでも有名な定跡手順である。

この前、この手順に沿って指してたら、上図の▲4八同玉にいきなり△6七銀成とされ、▲同金右△同角成▲同金△8八飛とされた。

△3八飛▲4八飛△同飛成▲同玉を入れずに△6七銀成とする手は「羽生の頭脳」の第10巻にも書かれており、▲同金右△同角成▲同金△8八飛に▲6八金引△8九飛成▲6九歩で先手の勝ち筋と書かれているが、△3八飛▲4八飛△同飛成▲同玉を入れてからだと▲6八金引とできないので、底歩が打てないのである。
この手は見たことが無かった。

実戦は△8八飛の後、▲6八歩△8九飛成▲3九飛△同竜▲同銀△8九飛▲3八銀△2八金▲4九銀打△2六桂で、終盤力の無い自称アマ三段らしく自滅して終了してしまった。
▲3八銀が大悪手で話にならないが、ここまで来ると、▲3八銀打や▲1六角(激指14推奨)などとしても形が悪いので受け切れないと思う。

感想戦で対戦相手の人が、昔、中部地方の有名なアマ強豪(元朝日名人)にこれを食らって負け、未だに対策がわからないと言っていた。

その後、参考文献[1]にこの手が書かれているのを見つけた。△8八飛には▲6八銀、後手の攻めが一段落したら攻め合えば良いと書かれていたと思う。激指14の推奨手もこれである。

確かに▲6四歩が残っている分、後手を攻めやすそうではあるが、問題は後手の攻めを一段落させられるかどうかである。相変わらず底歩が打てないので、なかなか安全な形にならないように思う。
この後は△8九飛成▲3九飛△同竜▲同銀△8九飛▲5九飛△同飛成▲同銀

くらいだろうか。盤上に受け駒を1枚増やせてる分、少しましのようには思うが、後手からは△3八歩や△5五桂や△8八飛があり、やはり筆者には受け切れそうに無い。


3. △3三桂跳ばずに△8七銀
上記の△3三桂▲3六香の後に△8七銀とするのも有名な手で、横歩取り4五角戦法を覚えた頃の筆者は奇襲っぽさが気に入ってこれしか指さなかったのだが、最近は△3三桂とせずに△8七銀とする手をよく見かける。

「羽生の頭脳」第10巻では▲7七馬△7六銀不成▲6八馬△8八歩▲7七歩△8九歩成▲7六歩△9九と▲3六香

△3三香▲1一飛
で先手良しとされている手である。

筆者は20年前にこれを読んで以来、▲1一角成の直後の△8七銀を実際に指されたのを見たことが無かった。それが、昨年度のNHK将棋講座で紹介され、筆者は今年に入って100局も指してない中で少なくとも2回食らった。
NHK将棋講座の手順は、▲7七歩に△6七銀成▲同金△8九歩成▲5六歩で先手良しである。

△6七銀成は▲3六香に△3五歩(▲同香なら△2五飛)とする歩を用意したもの、▲5六歩はその△3五歩を消した手なのだろうか。

筆者は「羽生の頭脳」の手順もNHK将棋講座の手順も覚えておらず、△8八歩に全て▲7七桂と指して、△8九飛やら△8九歩成〜△7九とやらでやられてしまった。

しかし、参考文献[1]には上記▲5六歩の局面は先手難しいと書かれており、△8八歩に▲7七歩ではなく▲4六飛が本線とされて難解な手順が続き、さらに△7六銀不成には▲同馬△2六飛▲2七歩でもいい勝負と書いてあり、訳がわからない。
とにかく難解のようだ。


4. △4五角に▲3五飛
これは今年ではなく何年も前のことだが、ある団体戦で強豪チームに当たってしまったので、ダメもとで△4五角を仕掛けたら、▲3五飛とされて、対処がわからず壊滅してしまった。

当然△6七角成だが、▲7七角とされると次の手が難しい。

後で調べたら、この▲3五飛もよく知られた対策らしく、参考文献[3]に詳しいが、後手にとってありがたくない変化が多い。

例えば、▲7七角に△8八飛成▲同金△6六銀とするのは、▲8六角△5七銀成▲5八歩△8五歩▲同飛△7六馬▲8一飛成△8六馬▲7七歩

という味わい深い手順で先手勝ちになる。△8六馬で技あり(▲同竜なら王手飛車)に見えて、▲7七歩がぴったりで終了してしまうのが恐ろしい。

現実的には、少なくとも筆者は細かい所まで覚えてられないので、▲7七角に△同馬▲同桂△3三桂

と収めることになりそうで、急戦を仕掛けてこれでは面白くないと思う。


参考文献
[1] 決定版!横歩取り完全ガイド(吉田正和)
[2] 羽生の頭脳 第10巻
[3] 横歩取り超急戦のすべて(飯島栄治)